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ある配当権利落ちの日の午後、その日は朝から先物が夜間高値から300円近い下落を見せていた。

ショートポジションを取っていた私は、冷静にこの下落を眺めながら、心の中ではどうせ大きく下がらず、すぐに戻すんでしょと、冷めた目でチャートが映し出されているモニターをぼんやりと見つめていた。そんなとき、りゅう先生のツイートが目に入ってきた。

「プットサイドのボラが立たないことが、さらにプットを売る材料になってる雰囲気あって、ここはそれほど確率高くはないけど、当たったらデカイロングプットで向かうのも面白いかな。というかまたプット買っちゃったんだけど。」

えっ、ボラが立たないって? そういや、前にボラティリティの話をりゅう先生されていたなと思い出し、急ぎ相場ノートを取り出し、ページをめくった。

折しもその日から自作のツールでスマイルカーブの観察を始めていた私は、せっかくの機会だから、ボラティリティの復習をしておこうと、相場ノートに「ベガリスクの非対称性って、ご存知でしょうか」という書き出しで始まる一連の話を読み始めた。その話は、次のように続いた。

ベガリスクの非対称性、これはとても複雑、かつ、広範囲に渡る話題、かつ、つかみどころのないボラティリティについてのお話なので、うまく伝えられるのかどうか自信がないのですが…。」

りゅう先生がうまく伝える自信がないって、そんなに難しい話なのかと思いながら、先を読むと、最初にデリバティブマーケットにどのようなプレーヤーがいるのかの確認から始まった。

  • ヘッジャー

    機関投資家などの現物ロングをメインとする比較的長期のポジションを保持する主体。

  • アービトラージャー

    裁定業者と呼ばれる人たち。先物と現物・先物とオプション・ETF、ETNと各種指標などのパリティを保つ役目を(結果的に)担っている。

  • スキャルパー

    収益チャンスと見るやマーケットに群がり、そのほとんどが返り討ちにあってしまう、我々(りゅう先生のような先物・オプション戦士たち)のようなデリバティブプレーヤー。

 
このようなプレーヤーがいることを確認したあと、次のような話が続いた。
(以下、りゅう先生のツイートに若干の修正を施してそのまま引用)

ベガリスクの非対称性は、この三者がそれぞれの立場の最適化を目指した結果として引き起こされるのです。例えば、何らかの外部要因によってマーケットが突然急落したケースを考えてみましょう。

寄付きで3%下落してザラ場が始まった場合です。今はナイトセッションが割と直前までやってるので、厳密には相場付きが違いますが、ナイトからザラ場までの間にクラッシュしたとしましょう(あるかなぁw)。ヘッジャーは、持ってる資産に対するヘッジニーズに従ってプットを買いますが、コールサイドには影響を与えません。

ヘッジャー

コール:影響なし
プット:買い需要

スキャルパーは一括りにはできない主体ですが、ボラティリティマーケットに影響を与えるのは、その中でもショートガンマポジションを取るオプションプレーヤです。

彼らは原則としてデルタを取らないため、急落時にプットを買い戻すだけではデルタがショートに傾き過ぎてしまいます。そのため、プットの買い戻しと同時にコールも買い戻します。

スキャルパー

コール:買い需要
プット:買い需要

これを知ってると、なんか美味しいトレードできるんじゃないかなぁなんて思った人はオプションに向いてるので、是非やってみてください。きっと思惑通り儲かります。

最後にアービトラージャーですが、彼らは「適切な場所に」板を出します。この「適切な場所」ってのが曲者で、数学が支配するデリバティブマーケットにおいて、その瞬間マーケット参加者がどれくらいまでのプレミアムを払って(受け取って)いいと思っているのかが誰にも分からないのです

なので、例えば寄付き3%なんて急落して寄った日には、オプションマーケットから板が蒸発します。ITMはもちろん、ニアのアウトですら、ビットオファースプレッドが数十円あるなんてことがあります。

世の中には雰囲気でオプションやってる人も割といるもんで、こんなパリティ無視したデタラメな値段でもプット踏んでくるやつがいるわけです。ええ…、スキャルパーですよ、お恥ずかしいことに。

するとですね、その瞬間にそのストライクのIVが一義的に決定されるわけです。さらに、次にはそれを足がかりとして各種ストライクプライスの予想されるパリティが決まってきて、板に厚みが出て商いが活発になってきます。買い需要が多いのが分かっているので、MM(マーケットメーカー)の言い値も強気なもんです。

そうこうしてるうちに、ボーッとしてるスキャルパーの持ってるポジションがどんどんやられていきます。このような時って、一番最初に逃げたヤツか、最後まで逃げなかったヤツしか生き残れないとしたもんで、それ以外の人は受動的にロスカットポイントを迎えて強制ポジション解体でフィニッシュです。

この話もなんか金の匂いしますよね? ノーポジションでこういう状況に遭遇したら、今思ったままのことやれば、高い確率で儲かりそうですよね? それで合ってると思います。

マーケット参加者の度肝を抜くような下落が発生した時に、スキャルパーが取る行動(というよりも取らされる行動)は決まってます。これは知ってるか知らないかだけなので、自分がショートガンマ持って急落食らったら、どうするかを想像してみるのもいいと思います。

本来千差万別のポジションを持って、平時はそれぞれの思惑に従ってバラバラに動いてるスキャルパーですら、こういう時に取らされる行動は決まってるわけで、いわんやヘッジャーやアーブのやることや、です。

急落時の各主体のIVに与える影響をまとめるとはこうなります。

プレーヤー CALLのIV PUTのIV
ヘッジャー 影響なし 上昇
アービトラージャー (受動的に)上昇 (受動的に)上昇
スキャルパー 上昇 上昇

これを見ると、見るからにボラ噴くよねって感じです。

このように、りゅう先生のツイートでは、下落時におけるボラティリティの話が実に分かりやすく解説されていた。

ならば、逆に上昇した場合、ボラティリティはどうなるのだろうかと思い、この話の続きを相場ノートで探した。そこには、次のように記されていた。
(以下、りゅう先生のツイートに若干の修正を施してそのまま引用)

ダウンサイドへの大きな動きがあった時に、ヘッジャー、アービトラージャー、スキャルパーのそれぞれがどのようなことを考え、どう動くのか、その結果、どんなことが起こるのかという話をしました。それぞれが自分にとって最適化された行動をとった結果、ボラティリティが上昇するという話でした。

では、逆に上昇した場合は、どうのようになるのかを順番に考えてみましょう。

まず、ヘッジャーは原則として現物をロングで持っているため、アップサイドへのボラティリティは望むところです。利益が積みあがるために何もすることはありません。あえて言うならば、ヘッジ用プロテクティブプットをリリースすることぐらいです。

ヘッジャー

コール:影響なし
プット:やや売り需要

次にスキャルパーです。これはSQまでの残存期間によっても変わってきますが、大雑把に言えば、ニアのコールは買い戻して、アウトサイドにロールしつつプットを売り込んできます。この結果、ボラティリティマーケットに対する影響は、次の通りです。

スキャルパー

コール:差し引き影響なし
プット:大きな売り需要

最後に、アービトラージャはダウンサイドの時と同じように、「適切な場所」に板を出すだけで、この板はヘッジャーやスキャルパーのニーズにより次のようになります。

アービトラージャ

コール:イーブン
プット:安め

この結果、指数上昇時においては、ボラティリティは減少します。この非対称性がベガリスクの非対称性の理由です。

それでは、いつもこうなるのかというと、そうではありません。緩やかな上昇時にも関わらず、ボラが買われ、そこそこの急落時にも関わらず、ボラが立たないなんてこともあります。下落時にボラが立たないのは、割とあることです。

これは、SQが近くなってきて、日次では確かに下がっているのだけど、日中では大きく下落してから戻りを試すような動きになった時です。スキャルパーが底打ち反転とみて、リスクを取って来ているのがみてとれます。

これ以外にもありますが、それはまた別の機会に説明をします。

問題は指数上昇時にボラが上昇するケースです。これは、大きく分けて二種類のケースでしか起こりません。

1つは、その後、長期にわたる上昇相場の初動、もう1つは最後の踏み上げ局面です。

前者はアベクロ相場初動で、後者は直近では先週木曜日(2019年6月24日からみて)に、少し前では2018年の10月頭に見られています。

アベクロ相場の初動みたいなことは、一生に何回もあるわけではないので、その時は後からでも乗っていけばよいです。

問題なのは、後者の方です。ただ、これも、最後の踏み上げ相場の時にオプションマーケットで起こっていることを考えれば対処は可能です。

最後の上げ相場では、ショートコールに踏みが入るにも関わらず、そのアウトサイドに売りが入らず(つまり、ショートコールのロスカット)、かつ、デルタを取らないショートガンマポジションではプットの買い戻しも同時に入ります。つまり、急落時にボラが立つのと同じことが上昇局面では起こります。

昔から「踏んだら終わり」といったもので、こういうときはデルタトレンドが強いからと言って、アップサイドにデルタを傾けるようなポジションには注意です。

デルタに逆らっても、ボラには逆らうな」です。

普通ではない状況は、高いボラは、そのボラが高いからこそ、あえて買いに行くべきなのです。

「デルタに逆らっても、ボラには逆らうな」か、とても印象に残る一言でりゅう先生のボラティリティの話は終わっていた。

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